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『キングオブコント2017』感想~現実から価値観をズラす悪戯のセンス、それを徹底してエスカレートさせる勇気~

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4分間のコントは基本的に、「現実から1箇所だけ何かをズラして、それをエスカレートさせて終わる」。それを基本の型として観ていくと、勝負どころはおよそ2箇所に絞られる。

1つは「どこを現実(常識)からズラすか」。もう1つは「それをどのように(そしてどこまで)エスカレートさせていくか」。前者は「横の動き」、後者は「縦の動き」というイメージである。前者を「設定」、後者を「展開」と言い換えてもいい。

もちろん、「そんな既存の型などすっかり破壊したものが観たい」という気持ちも多分にある。しかし最終的に点数勝負となると、ある程度は音楽で言うところのベタな「コード進行」をベースに評価せざるを得ない部分があるのも事実だろう。

そしてその範囲内であっても、先に述べたように差のつく勝負どころは確実にある。物事を常識からズラすセンスと、エスカレートさせる勇気。その2点に注目しながら、今大会を観た。……ような気がする。……その割には違うことばかり言うかもしれない。

以下、登場順に感想を。

【わらふぢなるお】
カスタマーサポートセンターのサポート係と、そこに電話をかけるお客様という設定。

しかし通常であればモンスターカスタマーが出てきそうなところを、モンスター要素をサポート係のほうに持たせ、お客様のほうが常識的社会人であるという逆転現象が起きている。

現実にありがちな要素をきれいに反転させるという手法は、ベタなズラし方だが設定としては安定する。

問題はそうやって安定した設定から、事態がさほどエスカレートせずに小さくまとまってしまったことのほうだろう。設定がベタな場合、展開は相当に飛躍させなければ物足りなく感じる。

【ジャングルポケット】
1本目はエレベーターに乗る間際の攻防。

深刻な別れ話を、エレベーターに乗る瞬間という流動的な状況でおこなう点が、現実からズラしてある要素。

彼らは毎度、3人でないとできない設定をしっかり持ってくるのが流石。

目の前で繰り広げられるカップルの別れ話を迷惑がっていた斉藤が、中盤からはむしろ積極的に食いついてしまうというように、「起承転結」でいうところの「転」の部分が強いのがジャングルポケットの特長であり武器だと思う。

ただし昨年のネタに比べると、動きがややおとなしく、インパクトに欠ける印象も。

2本目は銃を突きつけられた人質という状況から、恐怖のポイントを銃以外の物(ロッカー)へとズラしてある。

こちらは音も含めアクションは大きかったが、展開がさほどエスカレートせずに終わった印象。

しかしジャングルポケットのコントは、本当にハズれがない。

【かまいたち】
1本目は公園で告白された時のリアクションを練習する学生と、それを見ている同級生。こうやって説明してもわけがわからないあたり、常識的な状況からはかなり思い切ってズラしてある。

そんな練習をわざわざするのもおかしければ、見えない相手に向かってしているのもおかしい。つまりこのコントに関しては、基本である「1箇所」ではなく「2箇所」ズラしてあるという見方もできるかもしれない。

そういう意味では、現実的に見えてかなり挑戦的な設定だが、この2つめの「見えない相手」という要素が、別の形で後半効いてくる。それによって後半は、劇的に恐怖感をエスカレートさせることに成功している。

2本目はウェットスーツが脱げないというだけの話。本当にそれだけなのだが、そのミニマムな設定の狭さこそが、全体にタイトな強度をもたらしている。

ツッコミに回ったときの山内の凄さは、目の前の事象だけでなく「相手の思考回路をも先読みしてツッコんで来る」ことだろう。

相手が「何をやったか」だけでなく、「何を考えてそうしたか」まで読み取ったうえでツッコんで来る。実際に「起こったこと」だけでなく、「考えているけどまだ起こっていないこと」にもツッコミを入れられるという意味で、「未来形のツッコミ」であるとも言えるかもしれない。

ちなみにこの「先読みツッコミ」の能力者としていま個人的に注目しているのがアインシュタインの河井ゆずるで、彼らのラジオ番組『アインシュタインのヒラメキラジオ』(KBS京都)では、強力な顔面と非力な学力を持つ相方・稲田の弛緩した思考回路をビシバシと先読みして窮地に追い込むという芸当が炸裂している。個人的にはいま一番面白いラジオ番組だと思っているので本気でおすすめしたい。

話を戻すと、かまいたちの優勝は至極妥当だったように思う。設定段階における「ズラし」という横の動きと、それをエスカレートさせ転がしていく縦の動きが連動した結果、ねじれながら螺旋状に上昇していくような、斜め上方向への推進力を強く感じた。

【アンガールズ】
2本とも安定したクオリティで安心して観ていられたが、彼らぐらい売れてしまうと何かこれまでとは違う実験的要素を出すのでなければ、こういう大会に出ることはあまり意味がないような気も。

アンガールズにとって4分はちょっと短すぎるようで、もっと長尺で後半エスカレートしていく形がベストであるように思う。

【パーパー】
モテない男の卒業式。

以前ネタ番組で観たときは、独特の空気感にそれなりのインパクトを受けたような記憶があるが、今日は小さくまとまった感じでほとんど印象に残らなかった。

2本前にやったかまいたちの学生ネタに比べるとヒネりが足りないように見えてしまった、という出演順の作用も少しはあるのかもしれない。

【さらば青春の光】
1本目は居酒屋でのよくある注文間違いが、実は店側のあざとい売り上げ向上策であることが徐々に明らかになっていく。

まさにちょっとした日常の「ズレ」がどんどんエスカレートしていく状況なのだが、この人たちは本当にこの「エスカレートのさせ方」が上手い。一段一段ギアを上げていくきっかけとなる言動も明確で、「あ、いまギアが一段上がった!」というのが、観ていると手に取るようにわかる。

2本目はパワースポットの岩を守る警備員の話。「ありそうでない、でも役割的にはあるのかもしれない職業」という絶妙な設定。「重要な場所には警備員が必要」という世間の常識を逆手に取ったような、発想の鮮やかなる転換。

「パワースポットに最接近し続けているのに全然幸せじゃない」という一点を突かれ質問攻めに遭う警備員が、途中から逆ギレして自らの不幸を独白しはじめるという劇的なギアチェンジの妙。

2本とも間違いなくクオリティが高く、個人的にはかまいたちかさらばのどちらかが優勝に相応しいと感じた。

【にゃんこスター】
結成半年弱の男女コンビがそのインパクトで今大会の話題をかっさらった感があるが、正直そこまで斬新だとは感じなかった。

男(スーパー3助)のほうは「実況解説型ツッコミ+叫び+右往左往+工作」という、書き起こしてみるとその構成要素は完全にもう中学生フォロワー。ただし「もう中」ほど天然ではないようで、さほど状況からズレることなく的確にツッコミができてしまっているぶん小さくまとまっている感がある。

一方で女性(アンゴラ村長)のほうはキンタロー。的な動きで黙々と踊り続ける。

となると、肝は動きの質とツッコミのワードセンスにかかってくるが、特にツッコミの言葉選びが実況の粋を出ておらず、単に大声で状況をそのまま説明しているだけの状態が続くため、やや物足りなさを感じた。

ネタは2本とも同じスタイルだったが、さすがに2本目は早々に飽きが来てしまった。

コンビ名も含めて、ニューフェイスならではの「人を食ったような感じ」が評価を得たのだと思うが、ネタ自体はむしろ「丁寧にちゃんと伝えようとしすぎている」印象を受けた。このキャラクターでいくならば、もっと観客を置き去りにする覚悟でぶっちぎって欲しかったが、そういうタイプでもないように見えた。

【アキナ】
バイト控え室での会話劇。

あえておとなしめの設定をおとなしいままホラーに変換する、という見せ方の工夫は感じたが、その演出ありきのスタイルがネタ自体を矮小化させてしまっている感じを受けた。

結果、小ネタの羅列に終わってしまい、後半に向けて盛り上がっていく展開が見えなかった。

【GAG少年楽団】
老いらくの幼馴染みによる恋愛劇かファミリードラマか。

「見た目はすっかり老人なのにやりとりは幼馴染みのまま」という時制と感覚のズレが設定として効いてくるかと思われたが、むしろその設定からハミ出す部分がないために、「設定だけですべてが説明できてしまう」という落とし穴にハマッてしまっている印象。

東京03に近い作風だと感じたが、東京03の場合はいったんかっちりした設定にキャラクターをはめ込んだ上で、それを思い切って破壊するという展開力がある。

タイプとしてはホームランバッターではないのかもしれないが、コンテストにおいてはやはりなんらかの破壊力が欲しい。

【ゾフィー】
母親が出て行ってしまった直後の父子。だが息子の「メシ至上主義」が炸裂するという感覚的な「ズレ」が効いている設定。

ただし、そのズレの箇所がとても明確であるがゆえに、「この1箇所の価値観のズレで押していくんだろうな」ということは早い段階で観客にわかってしまうため、その先の展開で観客の想定外の場所にまで状況をエスカレートさせられるかどうかが勝負になる。

思わぬ方向へ連れていってくれるのか、あるいは思わぬ飛距離を叩き出すのか。4分のあいだにそのどちらかへ観客を連れていかなければならないというのは、至極難しいことなのだなと改めて痛感した。


《『キングオブコント2016』感想》
http://arsenal4.blog65.fc2.com/blog-category-42.html
《『キングオブコント2015』感想》
http://arsenal4.blog65.fc2.com/blog-entry-299.html
《『キングオブコント2014』感想》
http://arsenal4.blog65.fc2.com/blog-entry-282.html
《『キングオブコント2013』感想》
http://arsenal4.blog65.fc2.com/blog-entry-247.html
《『キングオブコント2012』感想》
http://arsenal4.blog65.fc2.com/blog-entry-200.html
《『キングオブコント2011』感想》
http://d.hatena.ne.jp/arsenal4/20110924/1316792355
《『キングオブコント2010』感想》
http://d.hatena.ne.jp/arsenal4/20100924/1285257143

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『M-1グランプリ2016』感想~改めて「漫才らしい漫才」というベタな評価軸を持ち出さねば測りきれぬほどの、まれに見る接戦~

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毎度司会者や審査員は、口を揃えて「今回はレベルが高い」と言うものだが、今回は本当にレベルが高かった。ゆえに何か強引にでも確固たる評価軸を設定しておかないと、異様に審査が難しい大会だったと思う。

きっと審査員のうちの何人かは、自分の趣味嗜好を超えたところで、「M-1のMは『漫才』のMだ」というところを拠りどころに、最終審査に望んだのではないか。そうやって、ある種自分の外に客観的な評価軸を設定しないと比べられないくらい、上位陣の実力は例年になく拮抗していたように思う。

個人的には、最終決戦に残った3組の、1本目と2本目のクオリティの差に注目していた。『M-1』の場合、優勝するためには「2本揃える」というのが至上命題となっているが、やっぱり1本目で高得点を叩き出さない限り2本目に進めない以上、どうしても1番の自信作は1本目に持ってくることが多い。

つまり2本目は、必然的にクオリティがいくらか落ちるのが当然で、あとは1本目で認知されたキャラクターの浸透力でどれだけカバーできるかの勝負になってくる。

今回の場合、最終決戦に残った3組のうち、2本目が1本目と同等のクオリティを備えていたのが和牛、若干落ちたのがスーパーマラドーナ、それよりもさらに少し落ちたのが銀シャリだと感じた。銀シャリは1本目が良すぎた、というのもある。

とはいえこの3者の2本目の出来の差は誤差に近く、つまり審査員の面々にとっても、自分内にある「面白さ」という主観的基準だけで優勝者を決めることを諦めざるを得ない状況にあったと思う。

結果、審査員は「漫才らしい漫才」という、大会名に則った至極ベーシックなメジャーを今さら工具箱から引っ張り出したうえで、もっともオーソドックスな(コント的でない)漫才スタイルで勝負した銀シャリに軍配を上げた、ということになるのではないか。

逆にいえば、「漫才らしい漫才」という評価軸を改めて持ち出させた時点で、銀シャリの勝ちが見えたということもできる。どんなジャンルにおいても、邪道が王道を打ち破るには、誰が観ても明らかなほど圧倒的に勝つしかないのだ。

それでは以下、登場順に感想を。

【アキナ】
マセた5歳児が親に浴びせかける大人びた発言の数々。
話が進んでいくにつれ、それらが徐々に名言レベルへとグレードアップしていくという尻上がりな展開。

緩急や意外性はあまりなく、巧さはあるが突出した特徴がないとも言える。

【カミナリ】
ウド鈴木的なボケ+方言ツッコミ。
というと「キャイ~ン+U字工事」ということになるが、ツッコミのパンチ力の強さも含め、当たらずとも遠からずか。

ツッコミの比重が高く、その声の大きさと大振りな腕のスイングが印象に残るが、言葉の精度もちゃんと高い。
たぶん大御所の人たちは、「そんなに殴ったらアカン」的なリアクションをすると思ったので、上沼恵美子の81点は案の定。しかし巨人師匠の91点はちょっと意外。

【相席スタート】
合コンを野球のバッティングにたとえてみせる演出は面白いが、中身の「あるある」ネタが巷間に出回っている一般的な「あるある」であり過ぎるため、根本的なエンジンパワーが弱い印象。

共感はできるものの、共感を超えない。

【銀シャリ】
ほとんど完璧といっていい漫才を見せた1本目。
ボケが一番面白くなってきたあたりで、スパッと思い切りよく次のパターンへと切り替える展開力とタイミングの妙。
中盤で一気に畳みかける箇所もあり、緩急も自在。
最小限の素材を最大限に活用する、コストパフォーマンスの異様に高いネタで、隙がなく圧巻だった。

そんな完璧な1本目に比べると、2本目はやや小粒な印象。
1本目の「ドレミのうた」というピンポイントな設定に比べると、「雑学」というやや広めなテーマ設定であったぶん、縦に深めきれないまま終わった。

それでも対等な勝負に持ち込めるだけのクオリティは備えており、2本トータルで考えるならば納得の優勝。

【スリムクラブ】
相変わらずもの凄くゆったりしたテンポにもかかわらず、「U-18の天狗」「ばあちゃんを2WDに戻してください」「僕はおばあちゃんから生まれた」「家族のトーナメント表みたいなの」など、キラーフレーズ満載でとにかく面白かった。
圧倒的に不条理な世界観と鋭利なワードセンスの相性も絶妙で、個人的には大好きだが、ついていけない人が少なくないのもわかる。

上沼恵美子はもっとわかりやすくしろと愛のムチを放っていたが、個人的には下手に観客に合わせてほしくない。もちろんわかりやすく味つけしない限り、評価してもらうのが難しいのはわかるし、まさに今回がそういう場だったわけだけれど。

【ハライチ】
昨年は独自の「ノリボケ漫才」を封印した結果、普通すぎる漫才になってしまっていたが、今年はきっちり新たなハライチを見せてくれた。

形としては、ツッコミを無視して容赦なくボケ進めていくという、ナイツやオードリー系の「すれ違い漫才」に近い。
といっても従来の「ノリボケ漫才」も、冒頭とラスト以外はまともな会話にはなっていなかったわけで、そういう意味ではハライチらしい距離感はきっちり生かされたスタイル。
しかし今回のように、「漫才らしさ」が評価基準になってくると、2人が正面からガッチリぶつかり合う「対話の妙こそが漫才」という古典的な価値観が壁になる。

だが個人的にはかなり面白く、このパターンのネタを他にも観てみたいと思った。

【スーパーマラドーナ】
スーパーマラドーナといえば武智のヤンキー感が売りだと認識していたが、今大会で田中の方のポンコツキャラがブレイク。

日常的な出来事の報告が徐々に狂気性を帯び、起承転結の「転」で衝撃の展開を見せた1本目。
田中の歩き方レベルの細かいボケもきっちり機能していて、その変態的なキャラクターを印象づけることに成功した。

それに比べると2本目はやや大味だったが、スピード感と派手なアクションによって細部をカバーして余りある勢いが生まれ、貧弱な田中が体格のいい武智をひょいと持ち上げたところで笑いが沸点に達した。

全体にもう一段階精度を高めることが出来そうな余地があり、逆にそこが伸びしろとスケールの大きさを感じさせる。
とはいえ、今回優勝してもなんの不思議もなかった。

【さらば青春の光】
「漫画やん」「能やん」「浄瑠璃やん」とツッコミワードを限定しつつ発展させていくことで、狭い設定を深く掘り下げるタイトな言葉遊び。

最後に待ち受けていた「キャッツやん」がやや言葉として弱く、ラストが尻すぼみ気味になってしまったことが悔やまれるが、他とは絶対にかぶらない設定やキーワードで勝負してくるあたり、やはりこの人たちにしかできない世界観がある。

【和牛(敗者復活枠)】
2本ともクオリティをきっちり揃えてきたあたり、やはり確固たる実力を感じさせるし、他のネタも観たいと思わせる力がある。

1本目がドライブ、2本目が花火大会という同方向のデートネタを2本揃えてきたのも、クオリティの安定に一役買っているとは思うが、逆にそこが2本目を縮小再生産っぽく見せてしまったかもしれない。
実際には2本目も、クオリティは1本目同様に高かったのだが、今回ほどの僅差勝負になってくると、そういう戦略的な部分も少なからず(そして決定的に)作用してくるだろう。

とにかく人間の嫌な部分を細かく炙り出すボケのセンスが秀逸で、そこに関西のテンポ感の良いツッコミがジャストタイミングで入ってくる。
描写のレベルも細かく、2本目で迷彩柄の服が思わぬところで効いてくるあたり、すっかりしてやられた。

最終決戦を3者が終えた時点で、個人的には和牛が優勝するのではないかと思った。彼らの2本目のクオリティには、それくらい確かなものがあった。


《『M-1グランプリ2015』感想~「ネタ」と「キャラ」の融合が生み出すミラクル薄毛ファンタジー~》
http://arsenal4.blog65.fc2.com/blog-entry-301.html

《『M-1グランプリ2010』感想》
http://d.hatena.ne.jp/arsenal4/20101226/1293372609

《観客の反応がすべてを支配しすぎ、だが結果は意外と順当 ~M-1グランプリ2009総評~》
http://d.hatena.ne.jp/arsenal4/20091222/1261426486

《「スピードで誤魔化せる範囲は限られる」M-1グランプリ2008総評》
http://d.hatena.ne.jp/arsenal4/20081222/1229948554

『キングオブコント2016』感想~「縦に掘り下げる」笑いと「横に展開させる」笑い、それぞれの妙味~

キングオブコント2016

コントには、大きく分けてネタを「縦方向に掘り進める」型と「横方向に展開させる」型の2つがあるような気がする。いやコントに限らず、映画であれ漫画であれ文学であれ、そういう選択肢は常にある。

たとえば面白いワンフレーズを思いついたときに、それを良きタイミングでかぶせたり、表現をさらにエスカレートさせることで笑いを取っていくのか、それともそのフレーズを徐々に変形させ、あらぬ方向へと展開させながら意外性の笑いを生み出していくのか。

前者=「縦型」の典型は昨年のロッチの試着室ネタであり、後者=「横型」の典型はかもめんたるのネタに多く見られる。

もちろんその組み合わせというのもあって、縦に掘ったり横に広げたりしながら進んでいくのが理想形なのかもしれないが、しかしそこには「時間」という大敵が立ちはだかる。

今回の『キングオブコント2016』を観て改めて思ったのは、「4分間」という制限時間の難しさだった。もちろん6分なら6分の難しさがあり、15分には15分の難しさがある。それはわかっているのだが、「4分」という時間はどうやら、縦に掘る、つまりワンアイデアに頼ってかぶせて最後まで押し通すには長すぎ、一方で話を横へ展開させ広げていくには短すぎる。

いやむしろ難しい枠組みだからこそ、ちゃんとそれぞれの実力差が浮き彫りになる、ということでもあるのだが。縦でも横でも構わないが、どの方向にしろ「4分」という厳しい制限時間の中で、なにかしらの「飛躍」が求められている。

それでは以下、登場順にネタの感想を。

【しずる】
刑事2人が犯行現場へ突入。しかしその直前に、犯人がすでに捕まっていると知らされる。しかしなぜか現場突入プレイを続行する2人。

「犯行現場に犯人がいない」というコントの仕掛けが早いぶん、後半まで緊張感を持たせるのが難しい。

ベタの裏をかいた設定が枠組みとしてきっちり機能しているぶん、定番の逆をついたボケを安定して積み重ねていくことができるが、同時にその安定した場所からはみ出すのが困難にもなる。

お約束でもその真逆でもなく、最終的には第3の方向にまで行ってほしかったが、そうなると時間が足りない。

【ラブレターズ】
溜口の歌唱力を生かした歌ネタでありながら、それが塚本演じる高校球児のストーリー説明になっているという、ハイブリッドなスタイル。

ただ、歌の分量が多く、歌詞も替え歌というほど原曲を生かして遊ぶわけではないため、物語を説明する時間がかなり続く。

それゆえボケまでのストロークが長く、さらにはボケが野球好きでないとピンと来ないものであったため、苦戦を強いられることになった。

「スリーバント失敗」というのが選手にどれだけのダメージをもたらすか、僕は野球少年だったのでもちろんわかるが、一部のファンを除けば昨今の野球離れはかなり進んでいるようだから、たぶんわからない観客も多かったのではないか。

【かもめんたる】
1本目の遠距離恋愛も、2本目のヒッチハイクも、中盤で狂気性が露わになり、最終的には怖がらせて終わるという展開。

その中に、1本目の花を贈るゼスチャーであったり、2本目の「冗談どんぶり」というフレーズであったり、定型を縦にかぶせていく方法も入れ込んでいる。しかしそこがむしろあまり機能せず、横方向への展開を邪魔しているようにも思えた。

【かまいたち】
1本目はただ「首が下がる」というだけのマジックの繰り返しで、典型的な「縦に掘り下げる」系のネタと言っていいと思う。何度も繰り返されるうちに、いつの間にかそれを「もっと、もっと」と期待してしまうという意味でも、昨年のロッチの試着室ネタに近い感触。

横方向への展開には色気を見せず、これ一発で勝負してやろうという蛮勇がまた笑いを誘う。シンプルでありソリッド。

2本目はホームルームで給食費の盗難を問いただすという定番設定だが、犯人が自白癖のある生徒であるがために様相は一変。おかげで彼の壊れた因果律に巻き込まれ、まともなはずの教師が混乱を来すという見事な転倒が起こる。

最後にもうひとつ驚きが欲しかったが、ひとりの狂った価値観が全体をひっくり返す様は痛快ですらあった。

【ななまがり】
「茄子持ち上げるときだけ左利きだよ」という不条理なフレーズが頭の中を巡り巡って悪戯をするという、説明しても何が何だかわからない設定。

脳内の思考回路を具現化する手法は面白いが、現実と狂気が両極端で、その間の曖昧で一番「おいしい部分」が出てこないのがどうにももどかしい。

【ジャングルポケット】
「他人が用を足しているトイレのドアを開けちゃった」というだけのことが「トイレの個室に3人いる」異様な状況を呼び込み、さらに「誕生日サプライズ」へとぐるぐる展開していく。

速度も密度もある圧倒的な展開力で、完成度は随一。

2本目は病院での余命宣告から、その余命の驚くべき短さをどう使うかというある種の大喜利的展開。こちらも次々と展開して観る者を飽きさせないが、1本目に比べるとやや枠内に収まった印象ではあった。

彼らの場合、どうしても斉藤の派手な演技に目が行きがちで、たしかにそれが世界観への入口として重要な機能を果たしているのは間違いない。

しかしその根底を支えているのは、このアクロバティックな高速展開を可能にしているシナリオのクオリティであると思う。

【だーりんず】
結婚式前日の父子の会話。

父の告白により発覚した複雑な父子関係よりも、父親が童貞であるのかが気になってしょうがないという一点で話が進む。気になるポイントもやや強度が足りず、特に展開もないためあまり印象に残らなかった。

【タイムマシーン3号】
1本目は、カツアゲした相手が打ち出の小槌。小銭で行けるとこまで押しつつも、後半は小銭→小判→巨大な石のお金と、飽きさせない展開がしっかり用意されている。

2本目は演劇の本読み練習。こちらも後半には言葉遊び的な展開が少し用意されているが、ここはちょっと蛇足だったような気も。

【ジグザグジギー】
箸で蠅を捕まえる達人が蠅を捕まえ続け、もう1人がそれにツッコミ続けるというシンプルな内容。

これも典型的な「縦型」のネタだが、「箸で蠅を捕まえる」という第1インパクトを終始越えられなかった印象。

【ライス】
1本目は、銃を突きつけられているほうが偉そうな指示を出しまくるという逆転現象。

これも定番を裏返す形だが、要求をエスカレートさせていくさじ加減が巧妙で、徐々に引き込まれた。ただし、引き込まれるまでに結構な時間がかかったため、前半はやや退屈だった。

2本目は、喫茶店の客とウエイターの間に起きるトラブル。こちらも良くある設定かと思いきや、水をこぼされたのではなく単なる尿失禁だったことが明らかになり、状況は一気にねじれてくる。

そのねじれ状態が絶妙だったが、失禁の発覚という最大の驚きが結構前半にあったため、やや尻すぼみの印象も。


個人的には、ジャングルポケットが一番面白かったと思うが、2本目より1本目のほうが良かったため、採点上はやや不利な状況であったのかもしれない。一方で優勝したライスのネタには、観る側が面白さを自ら探す余白のようなものがあり、そこは特に現行審査員に玄人受けする部分もあったのではないか。


《『キングオブコント2015』感想》
http://arsenal4.blog65.fc2.com/blog-entry-299.html
《『キングオブコント2014』感想》
http://arsenal4.blog65.fc2.com/blog-entry-282.html
《『キングオブコント2013』感想》
http://arsenal4.blog65.fc2.com/blog-entry-247.html
《『キングオブコント2012』感想》
http://arsenal4.blog65.fc2.com/blog-entry-200.html
《『キングオブコント2011』感想》
http://d.hatena.ne.jp/arsenal4/20110924/1316792355
《『キングオブコント2010』感想》
http://d.hatena.ne.jp/arsenal4/20100924/1285257143