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テレビドラマ『家族ゲーム』(櫻井翔主演版)――内なる価値観を根底から揺さぶられ続ける快感

毎話、上下左右に間断なく心を揺さぶられつつ観た。リメイクというハードルを、ひねりを加えた跳躍で見事斜め上に飛び越えて見せた傑作。

テレビドラマに限らず、エンターテインメント作品には大きく分けて二種類の系統がある。ひとつは、受け手がすでに持っている価値観を補強してくれるもの。もうひとつは、受け手の価値観に激しく揺さぶりをかけ更新してゆくものである。前者は視聴者に共感と安心感を与え、後者は気づきと変化をもたらす。どちらが良いというわけではないが、個人的には後者が好みであり、本作は明らかに後者の極北にある。

まず何よりも素晴らしいのは、そのプロットのねじれ具合である。本作のストーリーは、正義と悪が瞬時に入れ替わる瞬間の連続であり、悪がさらなる悪に飲み込まれ、その結果としてそこからなぜか善が立ち現れてくるというような、不思議な入れ子構造を持っている。各話の展開も単純な起承転結ではなく、「転」の回数が異様に多い。

基本的には「毒を持って毒を制す」「清濁併せ呑む」といった故事成語がふさわしい構造になっているが、では何が「清」で何が「濁」や「毒」であるかというと、ここにはそれぞれを決定づける安定した価値観など一切なく、物事の善悪はシーンによって激変し、視点キャラを変えるごとに変化する。たとえば家庭教師が生徒を殴ることはその時点では悪だが、結果として生徒の性格が矯正され成績が上がったならば、そのプロセス全体を大きく善と捉える向きもあろう。

そんな風に、物事の価値というものは、どのくらいの長さで時間を切り取るかでも簡単に転換してしまうことがあるし、また視野を狭めたり広げたりすることでも一変する。極端な例を挙げるならば、我が子の幸せを願うことが社会に幸福をもたらすとは限らない、もしかしたら、親の望みどおり立派に育った優等生が、周囲の劣等生を見下し切り捨てるというような世の中を作り上げることだって充分にあり得る。

この『家族ゲーム』という作品が伝えているのは、「正義は勝つ」というような動かぬ価値観ではなく、かといって「悪が勝つ」というその裏の価値観でもない。両者は「固定された価値観」という意味では同じ物事の両面でしかなく、本作が伝えている本当に大切なことは、「価値観は常に流動的である」ということにこそあるのではないか。しかし「価値観が流動的である」ということは、けっして「流動的であれ」ということではなく、むしろ「相手の(そして社会全体の)価値観が流動的であることを前提として理解したうえで、信念を貫くために動く方法を考えろ」ということだろう。だが一方でまた、その信念が任務遂行の妨げになったり、致命的な悲劇を生むこともあり得るという現実の過酷さも、ここには如実に描かれている。

またストーリーだけでなく、役者陣の演技にも目を見張るものがあり、特に主役を張る櫻井翔の、安易に喜怒哀楽を読み取らせない、こじれにこじれた鬼気迫る演技は、アイドルの壁を軽々とぶち破る、役者としての高いポテンシャルを感じさせる。その教え子でイジメられっ子役の次男を演じた子役(浦上晟周)の、精神のねじれや鬱屈を具現化した表情や、多面的なキャラクターを鮮やかに演じ分ける忽那汐里の演技力も、本作を根底から支えている。

このドラマにマイナスな点があるとすれば、リメイクであるうえ、オリジナルの長渕版ドラマと松田優作主演の映画版の評判がそれぞれに高いため最初からハードルが上がりきっていたということと、独特のアクの強さがある種のとっつきにくさに繋がっていた可能性がある、といったあたりだろうか。

その作品のフィクションのレベル(度合)というのは、基本的に作品の冒頭で決まるものだが、本作の場合、一話目冒頭の沼田茂之の登場シーンと彼を部屋に閉じめる大胆な方法がその後のシーンに比べてトリッキー過ぎるため、物語入口で「話が漫画的でオーバーすぎる」と抵抗を感じた向きも少なくないかもしれない。個人的には「一話目に特有の気負いとけれん味」として受け入れたが、かなり大振りな先制パンチであったことは間違いない。

全体の平均視聴率が13%というのは、良いようなそうでもないような微妙な温度感(今の基準だとまずまず良い部類に入ると思うが)だが、たとえばプログレ系ライヴの客席によく見られるように、変拍子にどう乗っていいかわからずうろたえている観客が多くて視聴率が爆発しない、というような側面もあったように思う。少なくとも、「ながら観」に向いている作品ではない。

ちなみに番組中に使われていたインストのオープニング曲も嵐の主題歌も、非常にキャッチーでありながらかなり複雑かつプログレッシヴな楽曲で、そういった細部までこだわり抜かれた制作者サイドのスタンスが、このドラマのクオリティを保証していると言っていいと思う。

自らの価値観を揺さぶる楽しさを知るには、絶好の作品である。



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